スタッフインタビュー第2弾 太田 稔(監督)×鶴岡陽太(音響監督) | SPECIAL | 『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』
SPECIAL
スタッフインタビュー第2弾
太田 稔(監督) × 鶴岡陽太(音響監督)
「僕たちが知っている京都と地続きの世界であること」
――まず、鶴岡さんにうかがえればと思います。最初に『二十世紀電氣目録』の企画やシナリオに触れたとき、どのような作品だと受け止めましたか?
鶴岡この作品は、アニメ化の発表は約8年前、その後のPV(※1) から考えると約4年というかなり長いスパンがありました。そのPVは、どちらかというとほっこりした印象のものだったのですが、具体的な形になっていく過程で、太田監督から「スチームパンクでホラーです」と言われたんです。ずいぶん変わったなと思いましたよ(笑)。やるべきことが膨大になったぞ、と。
太田ドタバタした感じになりましたよね。
鶴岡そうですね。ただ、その「スチームパンク」も、記号的なスチームパンクとは少し違うんです。煙がもくもくしていて、世界観として暗いという意味ではスチームパンク的ではあるけれど、実際には「蒸気」そのもののスチームに近い。だから、いわゆる歯車や高層建築がたくさん出てくるようなスチームパンクではないんですよね。
太田そこは意図していました。あくまで、今の僕たちが知っている京都とどこか地続きでありながら、少しずれた世界にしたかったんです。
※1京都アニメーション企業 CM「明治編」 / YouTubeで再生する
――「ホラー」というのはどういった意味だったのでしょうか?
太田僕としては、背景美術の中に必ずブラックな部分を作りたかったんです。暗さや闇といった、少し得体の知れない部分ですね。電氣が象徴する明るさに対して、明かりのない時代の闇を見せたかった。喜八の未来視もそうですね。その意味で「ホラー」という言葉を使っていたのですが、もしかすると少しふさわしくない言葉だったかもしれません(笑)。
鶴岡時代性もあって、電氣の明るさに対して闇が際立つんですよね。明かりがなければ全部闇ですから。それをちゃんと対比したいという意味では、ものすごくわかります。ただ、ホラーではない(笑)。
一同(笑)。
――太田監督は、別のインタビューで「京都アニメーションとして新しいことに挑戦したい」とおっしゃっていました。鶴岡さんには、そうした方向性を具体的に伝えていたんですか?
太田「新しいものを作りたい」とは、鶴岡さんには特に言っていないと思います。
鶴岡でも、既存のものにはしたくないという意思はありましたよね?
太田そうですね。言葉としては使っていなかったと思いますが、その意思はなんとなく汲み取っていただいていた感じがします。
鶴岡ルックなども含めて、とても意欲的な絵コンテだったんです。実現するには難しいところもあったかもしれませんが、演出的には、今までの京都アニメーションの殻を打ち破ろうとしているアプローチだなと思いました。
太田ありがとうございます。ただ、かなり試行錯誤しましたし、暗中模索もいいところでしたね。ただ、鶴岡さんの音楽的なフォローのおかげで、しっかり整えることができたのかなと思っています。
鶴岡本当に手探りでしたよね。それはやっぱり、あえて手慣れたことをやっていないからなんですよ。でも、シリーズを通して、中身にだんだん焦点が合っていく感じはありました。最初から明確に見えていたというより、探りながら精度が深まっていった作品だと思います。
――監督から具体的に「こうしてほしい」とお願いするというより、絵コンテから鶴岡さんが汲み取っていった部分が大きかったのでしょうか?
太田そうですね。僕がお伝えしたのは、本当に「ボーイミーツガール」と、今思えばミスリードだったかもしれない「ホラー」というラベルぐらいだったと思います。あとは鶴岡さんが汲んでくださった印象です。僕が一生懸命しゃべっていると、横で鶴岡さんはもう独自の解釈を構築し始めているような顔をされていたので(笑)。
鶴岡別に話を聞いていなかったわけではないですよ(笑)。ただ、今話した試行錯誤ともつながりますが、最初から定まりきっていないところがあったんです。だからこそ、まずは探るというプロセスが必要でした。
――その「探る」プロセスの中で、音楽はかなり大きな役割を果たしたとうかがっています。鶴岡さんから太田監督に「音楽ライン案」を出されたそうですが、まず音楽ラインとはどういうものなのでしょうか?
鶴岡簡単に言えば、絵コンテを見て「このカットからこのカットに音楽をつけます」というプランですね。それに加えて、「この音楽が持っている意味はこうです」ということまで含めています。
太田シーンごとにタイトルのようなものもつけてくださったんですよね。僕はずっと手探りでやっていたのですが、鶴岡さんが第1話のシーンごとに「明滋に見る未来」のようなタイトルをつけてくださって、そこでようやくシーンの意味が見えたというか。
鶴岡絵コンテを描いた人に、絵コンテの意味を説明するという(笑)。
太田本当にそうでした。ずっと探り探りやっていたので、鶴岡さんにラベリングしていただいて、ようやく自分の描いた絵コンテの意味がわかったんです。
鶴岡音楽のプランニングをするときに、よくあることですね。ストーリーという意味ではなく、「物語の筋」が見えていないと、音楽をつけても意味がないんです。意味のないところに音楽はつけられないので。逆に言えば、意味があるからこそ「ここには音楽がほしい」となる。その意味を音楽としてつないでいくんです。
太田僕はそれまで、山場のところには山場の曲がつくような、絵に対して音楽がつくイメージを持っていたんです。でも、鶴岡さんはシーンの意味に曲をつけてくださって。そこが斬新というか、新しい発見でした。
鶴岡そうしないと、音楽ではなく、単なるお囃子になってしまうんです。もちろん賑やかしが必要な場面もあります。ただ、賑やかしが必要なものと、そうではないものがある。『二十世紀電氣目録』に関しては、必要のないところにはつけないということが大事でした。
太田音楽のおかげで、作品にかなりの厚みが出たと思います。
「作り手側もずっと『ユーレカ・エヴリカ』だった」
――音楽担当の湖東ひとみさんにはどのようなオーダーを出されたのでしょうか?
鶴岡今回は、事前に絵コンテ上で音楽の位置をかなり具体的に指定させていただきました。「ここに音楽を配置します。その意味はこういうことです」という形ですね。
太田鶴岡さんと湖東さんとのやり取りも面白かったです。メールのやり取りが僕にも転送されてくるのですが、鶴岡さんが非常に先鋭的なコメントをコンパクトに返しているんです。横で見ていると、こう言ってはなんですが、湖東さんが鍛えられていく様子も見えて面白かったですし、僕自身もシーンの意味を細かく文字にしてもらうことで、それをヒントに演出を調整することがありました。あのやり取りを見られたのはすごくよかったです。
鶴岡湖東さんとはたくさんやりとりをさせていただきました。最後のほうは、より具体的な話にもなりましたね。音楽家の方は当然、音楽としてショーアップ……盛り上げたくなることもあるんです。でも、それが物語とぶつかってしまうこともあるので、そこは調整したいなと思っていました。
――太田監督は、音楽の方針からかなりフィードバックを受けたんですね。
太田めちゃくちゃ大きかったです。考え方がだいぶ変わりました。よく考えてコンテを描いたほうがいいなって(笑)。
――(笑)。太田監督は、感覚でコンテを描かれることが多かったのでしょうか?
太田そうですね。感覚で描くことが多かったです。あとは、キャラクターの何を見せたいのか、そのシーンの主題の掴み方です。僕はずっとキャラクターや話の筋ばかり追いかけていたのですが、そうではなくて、本当は「何を伝えたいのか」を考えなければいけなかったんです。たとえば、「このシーンは稲子が主人公である」というだけでは足りない。もっと言えば、「稲子が葛藤を振り切って成長するシーンである」というように、もう一段、主題を見つけなければいけないんです。
鶴岡主題を見つけるのって難しいんですよ。さらに「これがテーマです」と言ってしまえば、それで終わりなところもありますから。たとえば、「ボーイミーツガール」だけで終わってしまうと、単に状況を描いただけになってしまうので。
太田「ボーイミーツガール」は、単なるパッケージなんですよね。
鶴岡今回で言えば、稲子と喜八という二人を最終的に支配しているものは何かという部分ですよね。最初は、そこに行き着かないといけない理由や目標をずっと探っていましたよね。
太田ずっと探っていました。副題に「ユーレカ・エヴリカ」とありますが、作り手側もずっとユーレカ・エヴリカしていました。
鶴岡その「ユーレカ・エヴリカ」という副題は、副題だけれど実はすごく主題的なんです。平たく言えば、好奇心や探究心につながる言葉ですよね。稲子も喜八も今後、いろいろと探求していきますが、その探究が人類的なものとして描かれている。タイトルは『二十世紀電氣目録-ユーレカ・エヴリカ-』だけど、『ユーレカ・エヴリカ-二十世紀電氣目録-』でもよかったかもしれません(笑)。そう考えると、五阿弥ルナさんのオープニング主題歌はまさしく主題歌だったと思います。
太田実は、「ユーレカ・エヴリカ」という造語は五阿弥さんが提案してくださって、作詞に盛り込んでくださったんです。こちらが迷子になっていたときに、「これだ!」とみんなで話して副題にしたのを思い出しました。
鶴岡我々も考えに考え抜いたからこそ、そこにたどり着けたということでもあります。
――劇伴はどのような方向性を考えていたのでしょう?
鶴岡最初に音楽のミーティングをしたとき、監督が湖東さんにぽろっと「ウインドオーケストラで」と言ったんですよ。えっ、と思いました(笑)。もちろん、事前にコンセンサスはありましたよ。でも、監督は最初に何を一番気にされたかというと、年齢感をあまり高くしたくない、ということだったんです。だからウインドオーケストラか、と。確かにその通りなんです。弦だと年齢感が少し高くなるし、高級感も増します。そう考えると、管はとてもいいんです。管だけでオーケストラとしての機能は完璧に果たせますし、ブラスバンドとも違いますから。
太田ウインドオーケストラというアイデアが出てから、ほかのアイデアがどれもかすんで見えてしまって。世界観の広さも感じられますし、何よりメインの部分でボーイミーツガールを感じる音楽にしたかったんです。
鶴岡たしかに、弦とピアノのような形だと少ししっくりこなかったかもしれないですね。
――第1、2話が放送、配信されましたが、あらためて手応えはいかがですか?
太田全部が正解だったと思います。その中でも特に、第1話で洋輔が百川家を荒らそうとしているところに劇伴がついたとき、すごくホッとしたんです。合っているし、いいなと。今回が初監督でしたし、映像と音が重なるということも含めて、ここまで話してきたことや考えてきたことが全部マッチしたなと感じた瞬間でした。もう大丈夫だ、と思えた瞬間です。
鶴岡手応えというより、とにかく狙い通りにできたという感覚ですね。まだ序盤なので、プランの再確認という意味でもしっくりきました。曲数はTVアニメとしては少ないほうかもしれませんが、それも含めて、『二十世紀電氣目録』という作品の作り方はこれでよかったのだと確認できた感じです。
「今まで見たことのない京都アニメーションの新境地へ」
――お芝居についてもうかがいます。喜八役の内田雄馬さん、稲子役の雨宮天さんをキャスティングした理由を教えてください。
太田まず、それぞれのキャラクターに合っていることです。喜八は主人公でありながら暗いところもある。どこか陰影があるんです。一方で、稲子はとにかく芯の強い声質の方がいいと思っていました。そのうえで、お二人とも鶴岡さんのディレクションに対するレスポンスが非常に正確だったんです。僕としても、この二人なら信頼できるとなったんです。
鶴岡信頼できると思えたのは大きいですよ。太田さんは今回が初監督ですし、あらゆるものが不安だったと思うんです。なるべく不安な要素は排除しておきたいじゃないですか?この人たちなら、ある程度任せられるし、引っ張っていってくれる。そう感じられることが大事だったんだと思います。
――鶴岡さんはキャスト陣の芝居について、どのような部分をご覧になっていましたか?
鶴岡現代劇ではないというところですね。とにかく「時代劇をやるぞ」と考えていたんです。ただし、「ござる」というようなことではなく、今風の抑揚が出ないようにするということですね。基本的には、皆さんわりとフラットに自然体でやってくださいました。フラットというのは平板という意味ではなく、変なクセや変な抑揚がないということです。まず、それができる人たちだったのがよかったと思います。
――キャストの方からは「時代劇感」というディレクションがあったとうかがいました。
鶴岡今の人が演じれば、当然、今の人のようにしゃべるんです。ただ、声優さんはきちんと訓練をされているので、自然にやれる素養を皆さん持っています。本当にフラットにやれば、「今っぽく」はならないんですよ。そのスタート地点をまず確保しようということでした。明滋というのは、今から見れば時代劇です。ただ、具体的な考証を伴った時代劇ということではなく、現代ではないことをちゃんと表現したかったんです。
太田この点に関しては、家中宏(百川甚右衛門役)さんにも相当お世話になりました。イントネーションひとつとっても、時代感に合った言い方をものすごく勉強してくださっていました。
鶴岡本当によく調べてこられていましたよね。
太田アフレコのたびに、スタッフもキャストも、みんな背筋が伸びていました。ぜひ、稲子のお父さんさんのしゃべりに注目していただきたいです。
――三添洋輔役の内山昂輝さんはオーディションではなくピンポイントでの起用だったとうかがいました。
太田内山さんに洋輔役をお願いした理由は、キャラクターを作っているときから、当て書きというわけではないのですが、内山さん以外の方があまり出てこなくて(笑)。そのイメージを優先するのが自然かなと思いました。
鶴岡ただ、洋輔はわめきっぱなしですよね?
太田そうですね。内山さんは、激しい声を出す芝居をそんなに多くされている方ではないので、鶴岡さんには「え?」と言われました。実際、内山さんは毎回「疲れました……」と言いながら帰っていましたから(笑)。
鶴岡最初は「大変だから頼むね」という感じだったんですよ。現場でも、「朝からごめんね」から入るような(笑)。
――洋輔は表情の変化も含めて、かなりコミカルなシーンが多い印象があります。
太田洋輔に限らず皆さんへのディレクションとして、面白い顔や変顔にはなるけれど別にふざけているわけではない、ということをお伝えしました。彼らは真剣に生きている。だから顔が変わったからといって、芝居を特別コミカルに寄せないでほしいとはお話ししたんです。
鶴岡変顔を絶対に拾うな、というのはよかったですよね。喜八と稲子も変顔のオンパレードですから。
太田そうですね。そこを全部拾っていたら、かなりうるさくなったと思います。
――京都アニメーション作品としては珍しいくらい、デフォルメされた表情が多いですよね。
太田若干、石原(立也)さん(※2) の血を感じるところはあると思います。新境地ではありつつも、急に突き放すようなことはしたくはなかったんです。顔がかわいいかどうかというより、変顔を入れるタイミングですね。あまり意味のないところで入っていたりもするので。
鶴岡そういうところを、太田さんはしっかり受け継いでいますね。でも、喜八の早口のようなものは、今まであまり見たことがないです。性格表現としての早口が面白かったですね。
※2アニメ「響け!ユーフォニアム」シリーズ監督、総監督 / 『響け!ユーフォニアム』公式サイト
――最後に、音響面も含めて第3話以降の見どころを教えてください。
鶴岡第1、2話は、まだ試行錯誤のプロセスがかなり残っている段階でしたが、第3話以降は音楽的にも特徴的なアプローチが出てきます。精度もより上がっていますし、最後のほうは手放しでOKと言えるところまで行けたのではないかと思います。
太田ここからは、湖東さんが「ユーレカ・エヴリカ」を湖東さんの視点で捉えてくださって、ますます精度が上がっていくんです。前半と中盤、後半では、かなり違って聞こえると思います。スタッフ全員が「ユーレカ・エヴリカ」していくので、いろいろなものの精度が後半に向けて上がっていくところを、ぜひ感じ取っていただけたら嬉しいです。
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